
前回よりスタート致しましたシネマスタッフの鑑賞記。
第二回は「マイ・ニューヨーク・ダイアリー」です。
作家志望の主人公がJ.Dサリンジャーのファンレター係になるというのが興味深い設定だと思い期待大で望んだ本作ですが、予想以上に深い”物書きと人生”についての映画だったと思います。
思春期を象徴するようなキャラクター、ホールデン・コールフィールドを生み出した事で熱狂的なファンを獲得し、それ故に苦しんだサリンジャーの人生は、ニコラス・ホルトが演じた「ライ麦畑の反逆児」が非常にオススメの映画なのですが、やはりこの手の”作家映画”を見る度に私は、「物を書く」という行為について思いを馳せてしまいます。

私もまた、作家なんてものを志してしまったばかりに人生を大きく踏み外した人間の一人ですが、仕事や恋愛、年齢などをきっかけに、その夢を手放してしまおうと思った事が幾度もあります。むしろ、ほぼ毎日眠る前に考えてしまうくらいです(笑)
主人公ジョアンナも、作家志望のヒモ彼氏(書いてる小説のセンスは最悪)との生活や、徐々に充実を見出していく仕事の為に、作家としての己を手離そうとしていましたが、結局は作家を目指すという夢に向かって行く事になります。
「書く」というのは一度、志してしまうと厄介なもので、辞めたつもりでいても気付くとまた筆を取ってしまうもの。
日常生活で溜まったものを吐き出す手段としていつの間にか心に根を張っていて、事あるごとに脳内で言葉をこねくり回し、文章を作っている。
長年やっている内にそれがすっかり癖になってしまっているのです。私も今後作家になれるか否かは別としても、「書く」という行為自体はきっと、生涯手放さない大事な自分の一部なのだろうなと思います。

本作は文学をめぐるストーリーも魅力的でしたが、「若い女性が都会に出て自分の居場所を見つけ出していく」そんな上京モノでもあります。
近年ではシアーシャ・ローナン主演「ブルックリン」が傑作として記憶に新しいジャンルではありますが、本作は文学を主軸に据えつつもしっかりとキモを抑えた描写が魅力的でした。
特に注目して頂きたいのはやはり衣装デザイン。色彩豊かな衣装が画面に華を添えてくれていますし、
何より、ジョアンナがNYという街に馴染んでいく様が街を往く彼女の表情と合わせて視覚的に表現されていて、これぞ上京モノの醍醐味だと感じます。
また、女性映画としての側面ではフェミニズム的視座が極々自然に各シーンの中に溶け込んでいるのも魅力的でした。
結婚を機に夢もキャリアも住む街すらも手放す事になる友人を見送るジョアンナのアイロニカルな視線や、ヒモ彼氏が口論の最中に放つ、「可愛かった頃に戻ってくれよ」という無理解そのもののようなセリフなど、決して分量としては多くないにも関わらず、一瞬だけでハッとさせられるような鋭い描写が非常に効いていたと思います。
これがあるのと無いのでは後半のダンスシーンやジョアンナの覚悟の重みが全く違うと思うので、再見の際は是非ともここに注目してご鑑賞下さい!
シネマスタッフH