
「実験だよ!実験!!」
そう叫び、髪の毛を編んで作られた呪物を手に、霊に憑依された人をビンタで除霊する。
ホラー映画史の中でも最も奇異な除霊シーンが話題となり、ニコニコ動画でブームを巻き起こしたのが本シリーズ「戦慄怪奇ファイル コワすぎ!」です。
心霊ドキュメンタリーというテイでありながら、瞬く間に現実を逸脱するストーリーと、ネットミームを生みまくる独特の掛け合い。チープなVFXを逆手に取り異界の表現として展開する大胆さなどが魅力として挙げられる本作ですが、中でも最大の魅力は大迫茂生さん演じる暴力ディレクター工藤仁のキャラクター造形であると思います。
口裂け女は轢き飛ばし、とり憑かれたらビンタで除霊。河童とはスデゴロで殴り合うなど、粗暴の一言に尽きる男でありながらも、ルールを意に介さない暴力性で怪異や呪いすらも打開してゆく様がある種痛快でもあるのです。

理不尽や、押し付けめいた法則に決して屈しない強い人物として、観客の軽蔑と尊敬の両方を集めてきた彼ですが、本作ではディレクターからプロデューサーに昇格。いつものパワハラ上司ぶりも激しくなっているかと思いきや、なんと部下である市川にあっさりとのされてしまいます。投稿者の女の子にはキモいと言われてやや落ち込んだりと、らしくない姿。
工藤さんがこんなに弱々しくては、怪異に立ち向かう事が出来ないのでは???
そんな違和感と共にお話を追って行くと、今回の投稿者である三人の過去には非常に痛ましい暴力の背景が隠されていたことが明らかになります。
恋人と共に信じがたい暴力を受けた少女の悲痛な叫びと、その真相を目の当たりにした時、私は本作の描こうとしているテーマが”力”というものの相対化にあるのだと理解しました。

これまでのシリーズでは、暴力という力は理不尽な呪いや怪異に対抗し、運命に抗う為の手段としてある種のヒロイズムでもって描かれて来ました。
しかし、工藤という男が行使して来たその強さは裏を返せば、他者への理不尽さや支配に易々と結びついてしまう有害な性質を持っているのです。
おぞましい暴力を行った謎の男の正体が彼のダークサイドであったのは、本作のテーマが『工藤という男の”有害な男らしさ”』にまつわる話だったからなのでしょう。
マチズモの二面性という今日的なテーマを『コワすぎ!』によって提示されるとは思ってもいなかったので、この構造に気が付いた時は思わず、「なるほど!!」と膝を打つような思いでした。
工藤さん、あんた世のおっさんよりアップデート出来てるよ!
個人的には、ややテーマの為の背景と化してしまっている投稿者の若者達が不憫に感じたり、性暴力や受胎のモチーフの取り扱いに危うさや気まずさを感じる部分はありましたが、相変わらずキャラ立ちが異常な霊媒師や、霊体ミミズによる攻撃、白石監督お得意のカメラを振っている間を編集点にするワンカット風演出など、シリーズファンが観たかった『コワすぎ!』の新作が遂に見れているのだという多幸感に満ちた78分間で最高です!
ラストのテロップが示す、その後の世界の惨劇にどうか投稿者の彼女達だけは巻き込まれずに幸せであって欲しいと願ってやまないが、きっとNEO様や江野君、道玄や真壁先生、おまけに常盤経藏(珠緒って名前は偶然の一致じゃないよね?)ら、白石バースの霊媒師アベンジャーズが何とかしてくれると信じたい!というかそんな続編が100本くらい見たい!!と思わされるニッコニコの映画体験でした。