
幾度も重ねたであろう自分と人生に対する失望に酩酊の靄をかけねば生きて行けないレスリーの姿は、心地よい虚構に逃避しがちな自分の似姿を見るようで辛くもあり、それでも再起を図ろうと努力する様に、気付けば勇気を貰える作品でした。
サクセスストーリーやリベンジストーリーとして受け取るには、あまりにもみじめで、卑小で、微かな再生だけど、しかし一番難しい第一歩までを丹念に描いた脚本であったと思います。
主演のアンドレア・ライズボローが醸し出すレスリーの満身創痍な空気感も作中に危うさやサスペンスをもたらしていて素晴らしかった!
自分が悪いとわかっているが、自分にも事情や理由があったのだ。悪意ではないし、故意でもないのだと、人から過去の行いを詰られる度に半ば逆ギレに近い態度で情状酌量を乞う姿には見ていて怒りを覚えるような迫真ぶり。
しかし中盤以降は、息子への確かな愛情と、過ちへの悔恨に向き合い、自暴自棄や自己憐憫を振り切ってようやく再起を図ろうと努力する彼女を阻むように悪意やすれ違いが発生するので、「ダメだよ!飲んじゃダメ!」と見ているこちらが保護観察官にでもなったようなスリルまで湧いて来る。
アカデミー賞ノミネートも納得の、感情が振り回される素晴らしい演技であったと思います。

個人的な話になりますが、私もまた劇中の母子に似て、親子関係に大きな確執のある身の上です。母のことは愛していますし、育てて貰った恩義も感じていますが、それでも、近くにいる事は互いの為にならないと思い私から一方的に絶縁している状態にあります。
私の母はアル中でこそありませんでしたが、心の病気を抱えていた時期もあり、何かと不安定になりやすい人でした。
酷くなじられたり、手をあげられる事も珍しくない不健全な環境ではありましたが、比較的落ち着いている間は映画に連れて行ってくれたり、優しく本を読んでくれた思い出もあります。
大人になるにつれ、母親という役割に課せられる物事の多さや母自身の生育環境などを知り、理解のある息子で居ようと努めましたが、どうにも溝を埋めることは出来ず、母が宗教と陰謀論にのめり込んだ事がトドメになり、私たち親子の関係は破綻しました。

私には、レスリーの息子が彼女に向ける複雑な愛憎が痛いほど分かります。
実の親を、ましてや母親を恨んだり、拒絶するというのはとてもとても辛いものです。
本当ならば仲の良い親子で居たい。けれど互いの心に刻まれたトラウマが相手を遠ざけ、裏切り、傷つけ合わずには居られない。
見えない敵と格闘する為に振り上げた拳が、傷付けたくない相手にどうしても触れてしまうような感覚です。
前述した、レスリーが自己弁護をまくし立ててしまうシーンなど、喧嘩の度に母が見せる態度にあまりにも似ていて、そして私も、以前のパートナーを自分の育ち由来の自己否定的な言動で悲しませた際に同じ反応をしてしまった事を思い出す辛いシーンでした。
過ちは誰にでもあって、その背景には理由や事情があるのは当然ですが、いつまでもそれを免罪符にして繰り返していてはならないよなと、スウィーニーの叱咤の言葉が身に沁みました・・・。
私と母の関係に劇中のような抱擁の瞬間がいつか来るのかは分かりませんが、母もどこかで再起し、トラウマが癒え、穏やかに過ごせる日が来てくれる事を遠くから願い続けたいと、己の中の祈りを涙と共に再確認した映画体験でした。
