
まさに、”今、見に行ける地獄”と呼ぶのに相応しい映画でした・・。
鉄錆と屍肉、骸がひしめき合い、得体の知れぬ老廃物と汚濁が堆積した地下世界は正しくゲヘナ。
人間が作り出したビジョンの中で最も地獄の真に迫った作品であると、地獄を知らぬ私が納得してしまう程の圧巻の表現力。それを可能にしたのは、かつてCGによって居場所を奪われ、過去の暗がりに追いやられた表現技法であるストップモーションなのだから驚きです。
私が生まれた1995年にはキャメロンの「アビス」もスピルバーグの「ジュラシック・パーク」すらも既に旧作となっていて、もはやCGという技術は映像作品においてはあって当たり前の前提でした。
フィル・ティペットは私の世代にとっては殆ど過去の人になっていて、ストップモーションという技術もたまに見る古い映画で出てくるやつという程度の印象しか無かったのが本音です。

そんな私にとって「マッドゴッド」は非常に新しく鮮烈な映像体験として網膜に焼き付きました。
かつて隆盛を誇った表現という郷愁の匂いを微かに感じつつも、CGからは決して感じられない実在感と生命感がほとばしる本作の映像はこれまでの人生で目にした、”圧巻”、”衝撃”、”驚異”と銘打たれたどの映像よりも、私の心に強烈なフルスイングを見舞って来たのです。
これを書いている現在は鑑賞から一晩明けた朝ですが、あまりの衝撃度合いの高さに当たり前のごとく夢に影響が色濃く出て来てしまい若干うなされる程の衝撃でした(笑)。

スチームパンクなコスチュームが堪らない暗殺者が死屍累々積み重なる地層を横目に地下世界の奥へと沈んで行く様は、個人的に大好きな「ヱヴァQ」のセントラルドグマ降下シーンを思い出すようでワクワクと恐怖がジワジワと高まって行き期待は最高潮に。
さらに下層へと降りて行くと、焦熱と終わり無き労働が続く現実世界の縮図のような地獄像が広がっていて、その中で疲れ果てた様子で搾取され無残に死んで行く顔の無いヒトガタ達にはどこか己を憐れむような共感の悲しみを誘われました。
ボロボロと崩れ落ちて行く地図の描写は、あまりに凄惨、惨憺たる地獄の様相を目にして暗殺者の人間性が削られて行く様が象徴されているようで、この世界はもう消滅すべきなのでは無いか?という絶望を感じました。
孤独な暗殺者が手にした鞄に仕込まれたダイナマイトには、この世界を終わらせるべく彼が派遣されたのでは無いかと思わざるを得ませんし、爆破装置の時計が終焉の一歩手前で止まったり戻ったりする様子は、さながら終末時計を0時ギリギリで右往左往させている我々の住む世界そのものを彷彿とさせられて非常にハッとさせられるシーンでした。

セリフも無く、明快なストーリーが描写されている訳でも無いのに、なぜかこの作品が何を言わんとしているのかが心にだけ言語化不可能な感覚としてインプットされるような後半の更なる地獄と混迷の模様も凄まじく、この熱量を84分もの間、全身で浴びる事が出来るというだけで本作には一見、いや、百見の価値はあるでしょう!!!
フロムソフトウェアの人気ゲーム、ソウルシリーズが大好きな人間としては是非この世界観の死にゲーがやりたい!!!
後半に登場する「ブラッドボーン」のボスキャラ、メルゴーの乳母inペストマスクな錬金術師とヒヤヒヤのボスバトルがしたい!!!なんてゲーム脳な妄想も捗る楽しくおぞましい映画体験でした。